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田中 茉莉子(2004年度・舞踊学専攻卒)
舞台照明会社
 田中さんは、舞台照明の仕事をしています。舞踊学専攻を卒業後、自動車販売会社に就職しましたが、いろいろな紆余曲折があって照明という仕事に巡り会いました。現在では舞台を支える照明スタッフとして、様々な公演を飛び回る毎日を送っています。
<2012.01UP>


【卒業公演で照明を担当していましたね。】
い。劇場のいちばん高い所からスポットライトを当てていました。去年の4月からこの仕事を始めてまだ1年半くらい。照明としてはまだまだ駆け出しです。
【どんな会社ですか?】
台照明専門の会社です。バレエの公演が70パーセントくらい、モダンダンス系が20パーセントくらい、たまにお芝居やヒップホップの照明をやったりもします。私を入れて3名の小さな会社で、照明プランナーの社長と、私の半年くらい前に入社した先輩、そして私です。先輩もダンスをやっていた人で、もともとはヒップホップのダンサーでした。
務所は、多摩川沿いの町工場が並んでいるあたりにあって、まわりには倉庫も多く音響会社が倉庫を借りていたり、なんとなく同業っぽい匂いがします。こういう仕事は機材がたくさんあるので、事務所と別に倉庫を借りているところが多いんです。うちはお金がないから、倉庫兼事務所なんですけどね(笑)。
【どうして照明の会社に?】
またまなんです。ニチジョで助手をしていたのですが、公演の窓口に私がなっていて、外部のスタッフさんと連絡を取ることが多かったんですよ。照明の打ち合わせの時、「今年で助手の任期が最後なんですよ。」って言ったら、「じゃあうちに来る?」って。最初は冗談だと思ったのですが、ホントに入ることになって。
【軽いノリですね(笑)。】
長が「照明の専門学校とかを出ていなくても、ダンスのことを知っているならその分入りやすいよ。」って言ってくださって。私はバレエをやっていたのですが、実際仕事を始めてみるとバレエの公演の時は次の展開とかがわかるが役立っています。でも照明のことは、ほんとに何も知らないまま入ったので最初は大変でした。
【どうやって仕事を覚えていったんですか?】
ンスと違って照明は家とかで練習ができませんから、現場で見よう見まねで覚えていくしかありませんでした。かと言っていったん現場に入れば、公演が終わるまでずっと忙しくていちいち丁寧に教えてもらえません。
社して初めて現場に出た時は、「自分はいったいどうすればいいの?」という状態でした。他のスタッフに「アレ取ってこい。」とか言われても、「アレ」が何なのかわからないんです。
「ぼさっとするな!」「のろのろするな!」とか、すごい怒られました。怒られても何をしていいかわからないのでオロオロするばかり。最後には「死ね!」って言われてしまって(笑)。みんな職人だから口が悪くて、もう何回「死ね!」って言われたかわかりません。
【どんなことをやるんですか?】
台がよく見えるように(当たり前ですけど)、あと演出効果のために、舞台の上と前と横から色んな種類のライトを組み合わせて照らしています。バレエの照明などは、基本、均一に明るくなるようにしますが、ヒップホップなどでは「ムービングスポットライト」と言ってライトがぐるぐる回るような派手なこともやります。
「地明かり」と言って、たくさんのライトで舞台の上から舞台全体を均等な明るさに染めて(照らして)いくのが基本です。また「ネタ」と言って、ライトにステンレス板を入れて模様を映し出したりすることもあります。舞台の前からも、客席の上に吊ってあるシーリングスポットと、上・下手側にあるフロントライトで当てます。
ロのシーンの時などに舞台を暗くして、ダンサーだけに光を当てたい時は「サススポット」を使います。顔や体のラインをくっきり見せたい時は、舞台袖にある「SS(ステージ・スポット)」で真横に当てたりします。新人はだいたい舞台袖で、「SS」のライトの色を変えたりするところから始めます。
の段階にあがるのに普通は5、6年かかるんですが、私は会社の人手が足りないのもあって、今は「ピンルーム」に上っています。
【ピンルームって?】
「ピンルーム」は劇場のいちばん高いところにある小部屋です。窓があってそこからソロや主役のダンサーにスポットライトを当てていきます。
径30センチ、長さ1メートルくらいの細長い灯体を肩の上に抱えるようして、左手で明るさと大きさを調整するレバーを操作しながら、右手で照準を合わせて灯体を振っていきます。動いているダンサーを追うのはとても難しくて、最初は全然うまく当たりませんでした。
準の取り方も、人によってやり方が違っていて、私は先輩に教えてもらってガムテープで目印を作っているんですけど、老眼になるとライフル用の照準を付けたりする人もいます。ライトの付け消しのタイミングも腕のみせどころですが、私はまだあまりうまくできません。やはり現場をたくさん踏まないとうまくなれません。
【腰のウエストバックには、何が入っているの?】
事で使う道具です。まずトランシーバー。ドライバーとプライヤー、これはライトの球を交換しなくてはいけない時に必要です。ペンライトと登山用のライトは、真っ暗闇の中で手元や足下を見る時に。
ン袋にはタオルと皮の手袋が入っています。灯体はすごく熱くなって火傷をするので、腕にタオルを巻いて革の手袋をはめてやっています。それでも気をつけないとすぐに火傷をします。手袋があちこち穴が空くので、事務所でいつも縫っています。
とはペンとビニールテープ。ビニテは、どのケーブルがどのコンセントに差したのかわかるようにケーブルに巻いて回路を書いたり、ケーブルを吊りものバトンに這わせたりする時に使います。
たしのバックは大きくて重たいんですよ。ベテランになればなるほど何も持たなくなっていき、下っ端に「ドライバー貸して。」みたいな感じになります。私は下っ端だから何でも持ってないと、「なんで持ってないんだよ。」って言われます。
【ひとつの舞台には何人くらいの照明スタッフが必要?】
えば卒業公演くらいの公演だと8人前後ですね。プランナーと、オペレーターと修正で3人。ピンルームに2〜3人、ステージの上手下手にひとりずつで、8人。
ペレーターは照明の変化を進行させていく人です。「調光室」という窓から舞台が見える独立した部屋にいて、照明のプランをどんどん進行していきます。私はまだ「調光室」に上がったことはありません。
正というのは、ゲネプロの時などにプランナーが演出の人と話し合って「ここのゲージをもうちょっと下げたい。」とか「あの照明はカット。」とか、そういう指示をインカムで出すので、それを調光室で受けてプランを修正していく人です。
【お客さんは劇場?それとも公演する人?】
演の主催者がお客さんです。例えばニチジョの卒公ではニチジョがお客さん。全部の公演が、乗り込み(外部)のスタッフとは限りません。ピアノの発表会とか、規模が小さい場合は、劇場管理のスタッフだけでやる場合もあります。
の会社は3人しかいないので、公演ごとに足りない分は他の会社やフリーの照明さんにお願いしています。逆に他の会社の現場や劇場から呼ばれることもあり、この世界は「呼びつ呼ばれつ」なので、他の会社や劇場さんとも仲良くしていなければいけません。
【照明のプランはどうやって作っていくの?】
いたいの公演ではダンスの下見があります。卒業公演の時も作品見せがありました。衣装や髪型なども本番に近い形で作品を見せてもらって、「こういう照明にしたい。」とか「このきっかけでこうしたい。」とか要望を聞いていきます。
して照明プランナーがプランを作っていきます。プランニングはクリエイティブな仕事ですが、技術的なことも知っていなくてはいけません。劇場の機構や予算によってもできるできないがあるし、これくらいのゲージ(光の強さ)で明かりを出せばこういう感じになるということが頭の中でシミュレーションできないとプランが作れないからです。
ランを考えるのは得意だけど操作はうまくできないという人もいるし、操作はピカイチだけどプランは考えられないからオペレーターに徹するという人もいます。
明プランができたら、プランナーが作った仕込み図を基にライトを配置します。劇場によって機構が違っていて、長い棒で下から操作したり、ブリッジと言って世田谷「シアタートラム」みたいにカゴに乗り込んでやるところもあります。アートスクエアなどは、腕と膝にバンドを当てて狭い天井裏を這って登っていきます。
ャットウォークという舞台天井の細い足場に登って、ライトの向きを変えたりする時はちょっと怖いですよ。落ちて死んだという話も聞きます。もちろん安全帯とヘルメットを付けて安全第一なんですけど、もたもたしていると怒鳴られるのでその辺は難しいですね。
【男っぽい仕事ですね。】
う思われがちなんですけど、実際は照明はほとんどが女性なんです。昔は男ばかりだったらしいですが、今は入ってきてもすぐやめちゃうみたいです。高い所に登ったり重い機材も持たなくてはいけないので、男手は引っ張りだこなんですけど。
【大学時代は何をしていましたか?】
踊学専攻で、小山研究室でした。7才からダンスのお稽古場に通っていて、モダンダンスをやっていました。大学では「ショーケース」でコンテンポラリーダンスを踊ったり、フラメンコを入れて踊ったりしていました。
4年生の時に「アサヒ・アートスクエア」で、懐メロをテーマに舟木一夫の「高校3年生」をバックに踊りました。中学の時のセーラー服を着て、ボールを投げたりバットを振り回したりしました(笑)。
【その頃はどんな仕事をしようと思ってた?】
3年生までは、「将来はフリーターか、稽古場で教えをしながら踊っているんだろうな。」って思っていました。でも4年生になって怪我も重なったこともあり、どうしたらいいか悩みました。
までは好きなことをやらせてもらえたけど、「卒業しても親のスネをかじり続けて踊っているのはどうなんだ?」と思い、ダンスから一回離れてみようとシュウカツを始めました。「ダンス以外なら何をしても一緒だ。どうせなら全然違う世界に行こう。」と思い、たまたま家から近かった自動車のディーラーに就職しました。
【自動車ディーラーでの仕事は?】
2年間、事務の仕事をしていました。最初からわかっていたんですけど、仕事は面白くはなかったですよ。忙しくてお稽古場に通えなくなり、たまにオープンクラスを受けるくらいでもうがんがん踊ったりはしなくなりました。
事にも私生活でも悩む日々が続いていました。そんな頃、たまたま電車の中で大学の研究室の小山先生にバッタリお会いしました。「あんた、ひどい顔してるわよ。」って言われて「ちょっと悩んでいるんです。」って言ったら、「気分転換に大学に遊びに来てみたら。」ってお誘いいただき…。
のちょうど今ごろ会社のお休みの日に、久しぶりに研究室に遊びに行ってみました。そこで「助手のポストの空きがあるから4月からやってみない?」というお話をいただき、「これも巡り合わせかな。」と思いました。
れまではなんとなく「辞めたいな。」と思っていましたけれど、辞めてどうするとか具体的なことまでは考えていませんでした。辞める時にトラブルになった社員を何人も見てきているので、会社への言い方にはすごく気を使いました。
「つらいから辞める。」と言ったら絶対トラブルになると思ったので、「名残惜しいんですけど、先生に声を掛けてもらって自分もそっちの道に行きたいから行かせてください。」と言ってみたら、「そんなにやりたいことがあるんだったら頑張れ。」って送別会を開いてもらって、最後には花束までいただきました。
【助手の仕事はどうでした?】
生のお役に立てることが嬉しかったし、助手仲間と協力して行事を作りあげていったりするのも楽しかった。ちょうど今の時期は、色んな行事が重なっていて超忙しくて、寝る暇もないくらいでした。
変なこともたくさんあるんですけど、なんと言ってもダンスに関わっていられるし、学生からもらえるパワーが大きかった。ただ助手の任期は3年と決まっているので…。任期満了がなければ、正直今でも続けていたかったです。最後の日はもう大号泣でした。
【これからはどうしていきたいですか?】
長には「これからはお前たちの時代だから、知り合いのダンサーやスタジオに自分の照明を売り込め。」って言われます。今まで社長がやっていたプランニングの仕事も少しずつ回してくれるようになりました。
の間のニチジョのモダンダンス部の発表会でも、2作品だけ照明のプランをまかされました。イメージを聞いて、何もないところからプランを考えるというのはまさに生みの苦しみでした。私には経験値がないので、こうしたいと思ってもそれをするにはどういうプランを立てればいいのかわからないんです。色んな人に聞きながら何とかやりました。
は言われたことをやるのでいっぱいいっぱいですが、ゆくゆくはプランニングもできるようになりたいですね。やっぱり一人前になるには、10年くらいはかかるんじゃないかな。
【一生の仕事にできそうですか?】
うしたいですね。でも女性は出産したら、子育ての間は仕事を離れていなければいけないじゃないですか。妊娠したら脚立とか登りたくないですし、育休制度があるわけでもないので、続けるにしてもいったんはやめなければいけません。もし将来結婚して子どもができたら、どうしようと思います。
産してすぐ仕事に復帰する人もいますけど、最低子どもが3歳になるまでは一緒に過ごしたほうがいいかなと思ったり、そうしている間に照明のことをすっかり忘れてしまって体もついていかなくなるのではと思ったり。私の回りで照明をやっている女性は、結婚していても子どもがいないか、いても1人です。
【収入面のことを教えてもらえますか?】
ャリア次第ですが、忙しくてしんどい仕事の割に給料は安いと思います。私は最初の半年は7万円で、実家暮らしじゃないとやっていけませんでした。一人前になるまで技術を学ばないといけないのでしょうがないと思いますが…。今は給料も上がりましたが一人暮しにはまだ厳しいかな。
遇は会社によっても違っていて、大手の会社などは普通にお給料が出るようです。ただそういう会社は効率を優先するので、手早い仕事のやり方を要求されます。私の会社はいいものをじっくり作っていくという姿勢なので、照明を学ぶのにどちらがいいかは悩むところですね。
リーになって、現場ごとに呼んでもらって日給でもらっている人もいます。月4、5回行っても10万くらいにはなるのでいい仕事だと思います。それには、実力があって呼ばれるようにならなきゃだめですけど。私は今の状態だとまだ呼んでもらえないかな(笑)。
ういう世界は芸能界と同じで、なんとなく師弟関係というか、育ててもらったご恩みたいのが暗黙の了解としてあって、会社を移るにもフリーになるにしても気を配らなくてはいけません。
【照明の仕事は舞台以外にも色々ありますよね?】
い、色んな仕事があります。環境照明と言って、例えばお台場のビーナスフォートの天井に空の絵が描かれていますが、それが夕焼けになったり青空になったり時間によって変化していくようにプログラミングしたり、スカイツリーのライトアップや、クリスマスイルミネーションをやったり。会社によっては、イベントや劇場の照明の施工をやったり、劇場管理の仕事を任されたりもします。
【ニチジョ生にアドバイスを。】
台は、ダンサーだけで成り立っているわけではありません。照明とか音響とか、その他の部分による事もすごく多くて、その分野にももっと目を向けてもらえたら嬉しいです。ダンス以外にも舞台に関われる仕事はたくさんありますよ。
ンスの知識を持ちつつそういう仕事ができるのは、すごくいいことなんですよ。よりダンスを引き立てる照明とか音響、進行ができる人っていうのは重宝されると思います。
んな入ってくる時は、踊りたくて入ってくるけど、4年間で出ていかなきゃいけないっていうところまでは考えてない人が多いんじゃないかな。
3、4年生の公演の時には、1、2年生が必ずスタッフをやるとか、舞台の仕事を経験してみるといいんですよ。たまたま照明や音響の担当になって、それが面白くなって続ける人も出てくるかも知れない。
演がどういう過程を経て行われていくのかわかるだけでも、踊る時に役立つし、仕事を選ぶ時の選択肢の一つにもなると思います。
の世界は、みんな自分の腕で生きているという、実感やプライドが持てる仕事であることは間違いありません。私もいつかそういうプライドを持てるようになりたいと思います。
【絶対持てるようになっているよ。そうしたらキャリアカフェにも来てくださいね。】
い。それまで体力が持つかが心配ですが(笑)。
<2011.11収録>